第27回目のくらのむねんどうは、野村が担当します。
最近はすっかり日が短くなって、4時半ごろには日が沈んでしまいますね。冬が近づいてきたんだなあと感じる季節です。
今回は、立体作品を作る上で欠かせない素材の話です。私がこれまでどんな素材で作品を作ってきたか、そして今の素材にたどり着くまでの話をしてみようと思います。
大理石を彫っていた頃
私は美大で彫刻を専攻していました。当時の彫刻科は素材ごとに研究室が分かれていて、粘土・木・石・金属・ミクストメディアから選ぶシステムでした。私が選んだのは石彫研究室で、大学3年から大学院2年まで、ずっと大理石を彫っていました。
大理石は本当に美しい素材で、彫るのも見るのも大好きでした。でも卒業後、作家として続けていくにはいろいろと問題がありました。
まず、とにかく重い。自分ひとりで運んだり動かしたりできません。それに制作にも時間がかかり、1年に1〜2個しか作品を作れません。さらに、石という素材が持つ「重厚さ」や「権威的な雰囲気」が、私の目指したい彫刻のイメージとは少し違う気がしていました。

学生時代に制作した大理石の作品。3トンの石の塊を削って約2トンにしました!
そんなことを考えていた矢先、イタリアで大理石の採掘場を見る機会がありました。大きな白っぽい岩山から切り出されたばかりの石のかたまりが、数メートル四方くらいのサイコロ状になって並んでおり、そのスケールの大きさを見たとき、「あ、これは私には無理だ」と思いました。このとき何かがプツンと切れた感じがあり、ここから違う素材を探し始めることになります。

イタリア カラーラの採石場
大理石から離れる
この時は大学院を修了してドイツにワーキングホリデーで滞在していた時期だったのですが、しばらくしてコロナが流行し出しました。外出もままならず、画材屋がロックダウンで閉まる前に駆け込んで買った布、キャンバス、絵の具、糸など手元にあるものだけで作品を作る日々が始まります。
帰国後もしばらくは刺繍や絵画を制作していましたが、やっぱり立体的な形を作りたいという気持ちが強くなってきました。ただもう石のように重い素材は使いたくなかったので、軽くて、自分ひとりで扱える素材を探し始めます。

ドイツ滞在中に制作した刺繍作品
いろんな素材を試してみる
まず試したのが樹脂粘土。でも表面をきれいに仕上げるのが難しく、値段も高いため継続的な制作には向いていませんでした。
次に試したのが発泡スチロール。軽くて扱いやすかったのですが、あのポツポツした粒が細かい形を作るときに邪魔になります。それに作業場が粒だらけになって、掃除が本当に大変で…。
そのあとは一日ひとつ作品を作ってみたり…縫ったり描いたりねじったり組み合わせたり、とにかく毎日うまくいかなくて、いろんなことを試しました。

素材探しの試行錯誤。一日ひとつ色々な素材を使って作品を作っていた時の写真
スタイロフォームと出会う
いろいろな素材を経て、スタイロフォームにたどり着きました。これは建築資材として使われる断熱材で、発泡スチロールのように軽いのに、粒の集合体ではないため細かい形が作りやすい素材でした。
そして何より驚いたのが、制作方法が大理石とほぼ同じだったこと!
スタイロフォームはカッターで削り、紙やすりでやすってなめらかにします。大理石も、電動工具で大まかに削り、ノミで形を作ったら、やすりでやすって磨いていきます。硬さはまったく違うけれど、工程は同じでした。
手が覚えている感覚で制作できたので、スムーズに新しい素材での制作に入ることができました。

スタイロフォームを削っている途中の制作中の写真

完成した作品
今の制作スタイル
大理石とスタイロフォームはまったく正反対に見える素材ですが、私の中では繋がっています。
軽い素材になったことで制作ペースも上がりました。自分ひとりで運べるようになったことで、展示の自由度も増しました。でも形を彫り出していくという根本的な制作スタイルは、ずっと変わっていません。
素材を探して今のスタイロフォームにたどり着くまでに、刺繍も絵画も経験できたことは、私の表現の幅を広げてくれたと思っています。
これからも、また新しい素材に出会うかもしれません。でも今は、この軽くて自由なスタイロフォームで、たくさんの作品を作っていきたいと思っています。
ワークショップでは粘土を使っていますが、素材選びの楽しさや試行錯誤のプロセスは同じです。子どもたちにも、いろんな素材に触れて「自分に合うもの」を見つける体験をしてもらえたら嬉しいなと思っています。