北海道にある酪農家の友人宅に遊びに行ったとき、けさ早く赤ちゃんが生まれたというので牛舎へ走って行った。子牛はもう立ちあがっていて、子牛小屋でミルクを飲ませてもらっている。鹿も馬も、生まれてまもなく立ち上がれます。
それに比べて、生まれたばかりのヒトの赤ん坊は何と無力! 立てとまではいわないが、寝返りも打てず、オギャオギャと泣くばかり。その未熟なようすを、心理学者は「人間の子どもは生理的早産」と形容しました。
ところがです。小学校に入る6歳ころには自分の名前が書けるようになり、「形」をつくることができるようになっています。この間に何が起きて、どう変化したのでしょう?
子どもは一定の段階をたどって発達します。「発達」とは簡単にいうと”年齢による変化”のことです。赤ん坊がとつぜん、すっくと立ったり、走り出したり、階段をかけ上ったりすることはない。まず寝返りを打てるようになり、ハイハイし、つかまり立ちして、よちよち歩きをする、走るのはその後です。ミルクを飲んでいた赤ん坊が、ある日ステーキにかぶりつくなんてありえない! 離乳食を経て、歯が生えて…ステーキの話はずっと先の先。粘土遊びについても、いきなり作品をつくることはぜったいにありません!
保育園や幼稚園のほか小学校、大学、養護学校、小児病院、老人病院、チンパンジーまで多くの粘土遊びを観察してきました。それをもとに、子どもの「粘土遊びの発達」をゼロ歳から順を追ってみていきましょう。
ゼロ歳・1歳児は「つくる」以前の段階です。粘土に触るか触らないか。もし触ったならどのように触るか、体のどこで触るか、どう扱うか、素材へのかかわり方がポイントです。
★ゼロ歳児はほとんどがオムツをし、まだ大地を踏んだことがない足裏はふっくらと、座ることができない子もいます。粘土に触れなくてはなにも始まりません。まず触ることからです。
保育士さんは、まだ座ることができないゼロ歳児を膝に抱き入れます。
【写真1】保育士さんがトク君を膝に抱いて、「ねんどよ」と言いながら粘土片を近づける。トク君はじっと見ている。(何ダロウ?)。手を伸ばすが、上体が不安定なため触れるまではいかない。穏やかな表情で、粘土を嫌がってはいない。
【写真2】保育士さんが膝に抱いたヤッ君の足の甲に、「ほら」といいながらほんの少し粘土片をつける。周りの子が集まってきて、のぞく。(何サレルノ?)ヤッ君はされるがまま足を見ているが、体が固まっている。保育士さんがゆっくりゆっくり小片をつけていき、とうとう足首から先が粘土に包まれたところでヒーヒーッ、ひっそり泣きだした(大泣きではない。なぜだ。緊張のため?)。
★1人で座る、立つ、よちよち歩きでもできる子どもは自由にさせます。
【写真3】指で小片をつまんで見る。何分間もじっと見ている(コレ何?)。
【写真4】自分の足に小片をつける、こする。お絵かきの場合もこのように同じことをします。
【写真5】粘土は土・大地だから乗りたくなるのが当たり前。足裏の触覚で感じる。
【写真6】壁に粘土を押しつけてみる。粘って、くっつく(ツイタ!)。貼ってあるポスターやカレンダーにも押しつける。大きなかたまりはボタと落っこちる。小片は手を離しても落ちない。踊っているような手前の子は勢いよく粘土かたまりを放り上げている。
【写真7】足の爪に粘土をつけ、立ち上がって足裏で踏むサロペット姿のハナちゃん。おむつ交換すると、(モットヤリタイ!)すぐ戻って触る。
そのほかに、・わたしを見たとたん泣きだし、保育士さんにあやされて抱かれて座り、粘土に触った瞬間またギャッと泣き続け、触ることができない子がいる。
・保育士の顔と、粘土を、交互に見比べる子もいる(コレ大丈夫?)。
・興味を示さず、(自動車ブーブー)他のおもちゃへ行ってしまう。
遊んでいるうち、はずみで1人が泣き出すと、つぎつぎ伝染して全員が泣いてオムツ交換になる。粘土周りに誰もいなくなる。やむなし。予定の時間前でも終了です。
幼児は手で、足で、体中で相手に触れて理解し、世界を広げていきます。口の触覚はとくに敏感なので、あたりの物を手あたり次第に口へ入れ、なめたりしゃぶったりする時期があります。口で触れながら(ソウカ、コレカ)と理解していきます(もちろん危険がありますから、大人は注意して見ていなくてなりません)。
同じ造形の「粘土遊び」と「お絵かき」を比較しますと、
「お絵かき」は紙に描くため、【写真8】のように体が紙から離れることはできません。しかし、「粘土遊び」はちぎって持ち運んで壁につける、立って踏む、放り投げる、体につける…など動きが大きくダイナミックです。
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