連載#31 「粘土だんご」の未来は明るい

粘道のブログ「くら、のむ、ねん、どう」#15で、倉田紗希さんが「泥だんご」について書いています。テレビの再放送を見たのだという。
この番組は、NHKのにんげんドキュメント。タイトルは「光れ!泥だんご」(2001)。約20年前につくられたものです。

内容は、園の子どもたちが、両手いっぱいに粘土をつかんで、おむすびをつくるようにコロコロまるめて、だんご状にする。大きさはソフトボールか野球のボールくらい。
それに園庭の土をパラパラと振りかけて、こすります。
土を振りかける―手でこする―また振りかける―こする、をくりかえしているうちに表面がツルツルになってくる。さらに磨いていくと黒い光を放ちはじめ、ついには、鋼鉄のような黒光りするボールになる。

テレビにとりあげられるくらいだから「粘土だんご」つくりはブームでした。わたしもそのころは粘土漬けの日々だったので、子どもたちが園庭で「粘土だんご」をつくっているようすをながめたり表情を観察したりして面白がっていた。
「粘土だんご」はつくった子どもそのもの、もう一人の自分、自分の分身でした。

間もなく「泥だんご学会」をつくったと知って、ぜひ話を聞きたいと新幹線にとびのって京都へ、京都教育大学へ行ったことがある。

子どもたちにとって「マイだんご」は自分だけの宝物だから大切で、縁の下や物置の下、塀のはじっこ、遊具の裏側、凹み、箱の中……こっそり隠し置いていた。
朝、掃除のおじさんが、だんご、園庭のあちこちにありますと不思議がって教えてくれたっけ。
子どもは翌朝、登園すると秘密の場所から取り出してきて、またコロコロしている。
最後、「粘土だんご」はどうなるか? 
おおかたはヒビが入って割れてバラバラに、もとの土にもどっていった。

わたしは、「粘土だんごをつくろう」と子どもたちに言ったことは一度もない。しようと思えばできたが、しなかった。そんなことにおかまいなく、子どもたちは自由時間や放課後、ひたすらだんごつくりに熱中していた。倉田さんのエッセイは、ひたすら粘土だんごをなぜ回していた子どもの姿を思い出させてくれた。ありがとう。

「粘土だんご」の未来は明るい。
土に触れる、ひたすら触れる、なで回す、いつまでもさわり続ける。それがいい。
どの年齢の人もできるし、その人の物語が開くきっかけにもなる。
粘土だんごつくりのよさが広く知られ、社会に定着しますように。

コラム掲載の文章及び画像の無断転載及び商用利用を禁じます。

ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。