東京・目黒の商店街の一角にある『トンカラスキーム』。一級建築士事務所であると同時にアフリカの仮面や工芸品などを並べる雑貨店を兼ねたコミュニティスペースです。2021年に開業した頃から、ここで粘道のワークショップを20回以上開催してきました。そのワークショップに、オーナーである深田夫妻のお子さんも参加し“皆勤賞”。そこで、深田夫妻に、粘土遊びの魅力についてインタビューしました。
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地域の子どもたちが集まるコミュニティスペース
――まずは、お二人のお仕事の内容からお教えください。
裕也 一級建築士です。キャリアの大半は、JICAによるODAのプロジェクトとして、10カ国ほどのアフリカやアジアの途上国で病院や学校づくりに携わってきました。現在は日本国内で住宅をはじめとした設計を行いつつ、主にODAの施設建設案件を手掛けています。日本人の建築士としては、非常にユニークなキャリアだと思います。
ちひろ 私は以前、横浜日仏学院、現在のアンスティチュ・フランセ横浜校でフランス語の講師をしていました。結婚後、夫の海外赴任を期に退職し、2021年に目黒で『トンカラスキーム』を開いてからは、ここでフランス語教室を運営しています。
――『トンカラスキーム』の概要についてお教えください。
裕也 街づくりや地域貢献に関心のある建築家は多いですが、私もその一人です。そこで、2021年に転居した目黒の商店街に、地域の子どもたちが集まれるようなコミュニティスペースをつくろうと考えました。ちょうど当時、4歳の娘と2歳の息子がいたということも大きかったです。
また、私たちはアフリカでの生活が長かったのですが、アフリカの民族がつくる仮面やお皿などの工芸品に魅せられまして、そうした品々も並べてみようかと。そこで、こうした雑貨の輸入販売もしています。
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ワークショップ参加者の上手さに感心
――そんな裕也さんが、2020年7月に共通の知人であるYを介して大野と知り合うことになりましたね。
裕也 Yさんはアフリカに一緒に赴任した同僚から紹介されました。Yさんも海外生活が長く、アフリカの仮面に興味があるということでしたので。一度国内で会った後、またお互いが海外生活になった間もフェイスブックで繋がっていました。久々に帰国した時にYさんと再会したいと思って声をかけたんです。そうしたら、「友人を連れて行っていいですか?」と。その友人が大野さんだったというわけですね。
――Yは大野の小・中学校時代の同級生で、大野は中学2年で転校したのでそれ以来の再会でした。大野もYとはフェイスブックで繋がっていたんですが、なぜYが大野と裕也さんを繋いだのかは謎です(笑)。
ちひろ そうだったんですね(笑)。
裕也 でもその席で大野さんが始めたばかりの「粘道」の話を聞き、興味を持ちました。そこで、2020年10月、社会人向けのワークショップに参加させてもらった次第です。
――ワークショップのテーマは、「5色の粘土を使って15分で豆皿のチキンライスをつくる」でした。建築士として建物の模型もつくられているから、きっと手先が器用だろうとお誘いしてみました。参加されてみて、いかがでしたか?
裕也 おっしゃる通り、自分は手先が器用で模型づくりも好きでしたから、自信があったんです。ほかの参加者よりも凄いものをつくって、優越感を味わおうと参加させてもらいました(笑)。ところが、実際に参加してみると、ほかの7人ぐらいの参加者は皆さん意外にお上手だったんです。ああいった細かい作業に集中できたり、ほかの人の作品に驚かされたりと楽しい時間でしたね。
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20回以上のワークショップに“皆勤賞”
裕也 そこで、2021年7月に『トンカラスキーム』が竣工した時、ここでワークショップをやりませんかとご提案しました。
――ありがたかったです。その年の12月に『トンカラスキーム』での最初のワークショップを開かせていただきました。お嬢さんとお友達にも参加してもらいましたが、いかがでしたか?
ちひろ 娘は当時幼稚園の年中組の4歳でした。初めてカラフルで手触りの良いクラフト粘土に触って、嬉しそうでしたね。幼稚園でも粘土遊びはやっていましたが、においが強くグレーの油粘土でしたから。でも、最初はそのカラフルな粘土をどう扱えばいいかわからなくて、ぐちゃぐちゃに混ぜてしまっていましたけれども。
裕也 私は建築士としてモノづくりに携わっていますが、子どもにも何かモノづくりの機会を与えて、好きになってもらえばいいと思っていたんです。それに粘土は最適でしたね。可塑性に富んでいて、何もないところから自分のイメージにしたがって自由に形をつくることができますから。妻が言うとおり、娘は最初はうまくできませんでしたが、それでも楽しいと思ってくれればいいと思っていました。
ちひろ 2か月後に2回目をやることになって、娘にそう話すと即座に「やりたい!」と。それ以来、20回ぐらいやってきたワークショップは全部、参加しています。下の息子も、7~8回目くらいから毎回参加するようになりました。娘のお友達も、来ると次回の予約をして続けてくれていますよ。
――嬉しいですね。それだけ楽しいんでしょうね。
ちひろ でも、娘は最近、迷走気味なんです。10回目ぐらいから大野さんに代わって野村さんと倉田さんが教えてくださるようになりましたが、前回はアドバイスを聞いてもしばらく考え込んで、なかなか形をつくることができなくなりました。お友達がかわいいのをつくるのを見て影響されているのもわかるんですが、きっと同じようなものはつくりたくないと思っているのかもしれませんね。
裕也 オリジナルなものの“生みの苦しみ”を味わっているんでしょう。突き抜けてくれたら、きっともっと面白くなると思っています。
ちひろ ワークショップが終わると粘土が余るんですが、いつもそれを頂いて家でもつくっています。本当に面白いんでしょうね。
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子どもたちの創造性を養う粘土遊び
――それは良かったです。改めて、粘土の効用はどういったところにあると感じていますか?
裕也 プラモデルは予め出来上がっている部品を組み立てて完成させますが、粘土遊びはゼロの状態から自分で考えた形をイメージしてつくるわけですから、創造性が圧倒的に大きいと思います。ゼロから形をつくるのは建築士と同じなので、私が感じているようなモノづくりの面白さ、楽しさを子どもたちも感じてもらい、将来に繋げていってくれればいいですね。
ちひろ 私自身は全くクリエイティビティがないですが(笑)、子どもたちの創造性を養えればとてもいいと思っています。それと、粘道のワークショップで使う粘土がこんなにカラフルで手触りがいいのに、油粘土しか知らかなった私は感動したほどです。
――そうでしたか。では最後に、『トンカラスキーム』の今後のビジョンについてお教えください。
裕也 粘道のようなクリエイティブなワークショップをほかにもやってみたいと思っています。ただ、おかげさまで妻のフランス語講座が満員なので、余裕はあまりないんですけれども。それと、ここのサロンは6人ぐらいで一杯という狭さで親密感があるのはいいんですが、もう少し広いスペースを持ちたいとも思っています。
――期待しています。ありがとうございました!
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