さまざまな年代の人たちの粘土遊びを観察してきて、もっとも多くの時間とエネルギーを費やしたのがゼロ歳~小学校に入るまでの幼児についてです。何しろ面白い。粘土遊びをする前と後で顔つきが変わった、それくらいめざましい変化、成長ぶりです。
そんな子どもたちが「粘土遊び」する実験日のようすと1日の流れを紹介いたします。
いつもは夜型でもこの日ばかりは早起きして、ビデオ機材をかつぎ電車にのって1時間半。
保育園の園庭に子どもたちの元気な声が響いています。
「粘土のおばさんが来た!」
とかけよってくる子がいたりして、出だし好調。
「お早うございます!よろしくお願いします!」
と教室へ入ると、早くも先生たちは床全体にビニールシートを敷きつめています。
写真1 準備「粘土を並べる」
先生は、教室に敷きつめた白いシート上に、べニア板を適当な間隔をあけて5枚置きます。板ごとに粘土のかたまりを6個(1個は2キログラム量)置きます。板の大きさは180センチ*90センチで畳一畳分です。右側の後姿は、ビデオカメラを設置する作業中です。
まもなく、朝の外遊びをしていた子どもたちがそれぞれの教室へ入っていきます。
1クラスの人数は約30名、粘土遊びクラスの子どもたちは廊下に並んで待っています。
「入っていいですよ」
の声に子どもたちは順番に教室へ。ベニヤ板の周りの、思い思いの場所に座ります。
各自の粘土の前に座り、全体が静かになったところで、先生がスタートの合図をします。
「さあ始めましょう」
子どもたちはいっせいに粘土に触り始めます。
「ワアッ」という歓声とともにドスドスと粘土を叩く重い低音があふれて、教室内はひとしきり騒然と、工事現場のようになります。
遊ぶ時間は30分間。
子どもの身体に危険がない限り黙って見守る、指導はしない、できるかぎり自由に。その方針で、子どもたちは粘土にどう向き合うか?徹底的に観察します。
その観察方法は、
【ビデオカメラ】1ヵ所にビデオカメラを据え置いて、粘土遊びの最初から最後まで「全体を記録」します。定点観測です。これはあとで行動分析をします。
【写真記録】素晴らしいと思う場面、「これは!」という動きを、カメラマンに撮影するよう頼みます。
【言葉を書きとめる】先生が紙と鉛筆を持って、ベニヤ板1枚ごとに1人座ります。子どもが発した「言葉を記録」するためです。粘土に触れた瞬間の声やひとり言、会話、やり取りを一言ももらさず、書きとめてもらいます。
【直接観察】わたしは全身を目にして、直接、子どもの様子を「見る」に徹します。
30分すぎました。ハイおしまい。
子どもたちは、手や足を洗いに廊下へ、ホールへ、外へ教室から飛び出ていきます。
写真2「もっと遊んでいたいの」
中には遊び続ける子もいます。写真は2歳の女の子で、先生がほうきで掃除を始めても黙々と。そういうときはさせておきます。
わたしたちは流れ作業で、後片付けをします。
写真3 片付け「台を1枚ずつ洗い、立てかけて干す」
作品をのせた粘土板を1枚ずつ洗って、立てかけて水切り、乾かしているところです。
写真4 片付け「水をくぐらせる」
テラスに、水を張ったバケツやたらいを置き、その中に作品をザブンとつけて水をくぐらせてから、量をはかります。後ろでは先生が粘土をこね、室内では給食を食べ終えた4歳児がお昼寝のしたくをしています。
写真5 片付け「秤ではかって2キロにする」
秤(スーパーいなげやのビニール袋をかぶせてある)にのせて2キロ量にします。
写真6 片付け「こねながら話が弾む」
2キロ量に整えたら、板上で、こねて、丸めます。
先生たちは粘土をこねながら、楽しそうに明るく笑って、子どもたちの様子や感想を述べあい、共感しあい、チームワークがさらに良くなっていきます。
しかも、こねているのは、子どもが使った粘土です。同じ土をこねながら粘土遊びをする、粘土でしか味わえない喜びです。わたしはこの場面、雰囲気が大好きです。
写真からわかるように、2キロ量の粘土は、ちょうど手の平でこねやすい、両手を広げてつかみやすい、いい感じに落ち着く丸さです。
最後に、丸めた粘土に指でプスプスと穴を開け、その穴にチョロと水を入れます。粘土が自然乾燥して固くならないようにするためで「養生」といいます。
そうしてから蓋のきっちりしたバケツにしまうと保管は万全、次回の実験に備えます。
実験は午前9時にスタートしたらノンストップで、午後2時すぎまでかかります。遅い昼食は、ビデオやカメラの機材をぶらさげての帰り道、麵店へ。早くできるお蕎麦かうどんを注文、もちろん大盛りです。
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